お菓子業界の陰謀の活用法について

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   【作戦】  用意するもの。  高級チョコの代名詞であるGODIVA、3500円。  場所、部室。  『松井――預かってるものがあるんだけど』  『ああ? なんだよ』  訝しげな反応を示す松井。  そこで大袈裟な動作で贈呈される紙袋。  『じゃーん! おまえのファンと名乗る人からチョコレートのプレゼント!』  『……本当か? 誰から?』  『知らな―い。たぶん後輩だと思うよ!』  『……そうか』  そう呟いて、松井は何とも言えない表情で紙袋を見つめていた。  「これはいける……かな?」  松井は、地味にファンが多い。  いくらこの高校の吹奏楽部が小規模であるとは言え、全校生徒の前で演奏する機会はある。  そして彼はリーダーでかつ演奏も上手いため目立つ。その上容姿も整っているときたものだ。  ファンの一人や二人ぐらいできても不思議ではない。  もっとも、彼の性格を知っている部員からはモテないのだが。  私だって、もしも友達が『私、太一さんと付き合いたいの!』と言ってきたとしても、その背中を押すようなことはしないだろう。というよりも、実際しなかった。  正直、変な幻想を勝手に抱いて付き合ったら、どちらの為にもならないと思ったからだ。  『きっと彼はアイドルと同じでトイレになんか行かないと思うんだ!』と言ってきた人を応援する気にはさすがになれなかったというのもあるが。  とりあえず何が言いたいかというと、松井は人気があるくせに何か残念な奴だということだ。  だけど、私はみんなが思ってるよりは、彼はいい奴だと思う。  彼は適当な人間に見えるけれど、部活のことを真剣に考えている。  そして、みんなが思っているよりも、あいつは優しい奴なのだ。  私が泣いていた時は、心配してくれた。  私が悩んでた時は、話を聞いてくれた。  以前私が階段から落ち足を怪我して一人で歩けなくなった時には、支えてくれた。  だから私は、彼が残念な奴であろうと、みんながどう思っていようと、松井のことが  好きなんだ。  「…………あ…れ?」  何を考えた?  今、何を思った?  私は今、何を、想った……?  ――――好きなんだ。  頭を殴られたような衝撃と、軽い目眩。  何てことだ。ああ、何てことだ。  私は、松井のことが、好きなのか……!  
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