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国家公務員。
ああ、なんて素晴らしいのだろう!
安泰の二文字を容易に想像させる、そんな肩書きを俺は持っている。
周囲の人々――例えば隣の家の奥さんなんかはよく俺に対して「羨ましいわー」なんてことを言ってくるが、それにどう返せばいいのか、毎回毎回困ってしまう。そんなことありませんよ、と返すべきなのか、それとも、まあそれなりに努力しましたからねと正直に告白するべきなのか。
まあどうでもいいけどさ。
人付き合いはあまり得意な方ではない。何故って聞かれても、それは生まれついてのものだからしょうがないんですと答えるしかない。
そんな俺だから、今回の転属の話が決まったときは、冗談でもなんでもなく小躍りしそうになったものだ。少し複雑な気分でもあったけれど。
上級菓子管理局警備部。なんともお固そうなイメージを抱く名前ではあるが、その実情は大したものではない。
要は、お菓子を守る、ということだ。
我が国の王様は無類の菓子好きである。以前から世界中の菓子を取り寄せたりしていたのだが、欲望というのは歯止めの効かなくなるものらしい。
ついに王様は、上等な菓子という菓子を、すべて自分の物にすることにした。今から数年前の話だ。あまり大きな声では言えないが、王様よあんた馬鹿なんじゃないかなんてことを思わずにはいられないのだが、しかし王様自身にとっては大真面目な話であったらしく、ついに自らの住む宮殿の真下に、菓子の貯蔵庫、通称「ターミナル」を建設し、そしてその場所を守るための部署を新たに設立した。
それこそが、上級菓子管理局警備部というわけ。
いつ来るかわからない――もしかしたら世界が滅びるまで来ないかもしれない侵入者に備えて、銃火器の使用訓練をしたりと、意外とハードな部署ではあるが、主な任務としては、全部で三つある貯蔵庫の入り口の前でただじっとしているだけである。
やりがいなどといったものとは無縁に近いこの仕事だけれど、しかし給料は他のどの国家部署よりも良い。
「……ふざけてるよな」
思わずそう呟きながら、俺は薄暗い廊下を進んだ。
自らの歩く音が響く。ここが地下二百メートルの地中であると思うと、なんだか自分がもぐらにでもなったような気分に陥るが、それにも早いところ慣れねばなるまい。
これから毎日歩くことになるのだから。
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