お菓子業界の陰謀の活用法について

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   【作戦5・続き】  私は部室から立ち去り、松井は一人になる。  袋を開けて中身を確認してみると、GODIVAのチョコレートは無く、代わりにあるのは不恰好なハート型チョコレート。  そしてそこにはメッセージカードが入っている。 《騙されたなバーカ!! 松井のファン第一号とんまより》  なんて、さ。やるわけない。  友チョコの材料を買うために夜のスーパーに寄った。  これでもかと山積みになった板チョコの側に、可愛らしい柄の紙に店員の手書きと思われる宣伝文句。 《手作りなら、きっと想い伝わる》  「いや、伝わっても困るんだけどさぁ……」  そう言いつつも、お会計をした後の買い物かごを見れば、そこには明らかに多すぎる板チョコがある。  「…………してやられた」  思わずそう呟いて、苦笑した。  【費用(友チョコ)】  板チョコレート1000g…1800円  生クリーム200cc×3…1050円  調理用ブランデー200ml…550円 ――Monday,February 14――   《St.Valentine》  放課後。友達同士のお菓子の配り合いを終え、足早に部室へ向かう。  聞こえてこない、トランペットの音色。  もう下校してしまったのだろうと半ば諦めて部室の扉を開けると、松井は帰り支度をしている所だった。  「やぁ。お疲れ、松井」  「お疲れ。ていうか何しに来たんだよ。今日部活ねぇぞ」  「いや……いい加減楽器の練習しようかなぁと思って」  「へぇー。おまえが?」  「何だよぉ」  「とんまへったくそだもんな。大いに練習しろよ」  「ほっとけ! 人がせっかくやる気を出したというのに」  いつもと同じような会話。  何かが変わってしまうのではないかと怖かった。  しかし長きに渡って続けられてきたやり取りは、変えるつもりがないのなら案外変わらないものらしい。  この何気ない会話の中で、私は内心すごく安心していた。  だけど、今からギリギリの線を攻めたいと思います。  その為に部室に来たのだ。  ただの、自己満足ではあるのだけど。  膝をついて鞄を整理する松井の背中を前にして、密かに深呼吸。  「ねぇ。松井」  
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