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廊下の終わり、馬鹿みたいにでかい、見るからに重そうで頑丈そうな銀色の扉の前。
そこが、今日からの俺の仕事場。
「やあ、よく来たね」
扉の前に設置されたパイプ椅子に腰掛けていた初老の男性は、俺を見て僅かに笑った。今、俺が着ている紺色の制服と同じものを身につけているということは、彼も上級菓子管理局警備部に所属しているのだろう。
「本日付けで配属になりました。よろしくお願いします」
話は聞いているよと初老の男性は返した。
「前は防空対策本部に居たそうじゃないか。エリートだね」
そんなにいいもんじゃないですよ。本心から出たその言葉も、しかし目の前の彼には冗談として取られたらしく、笑われてしまった。
「まあ、緊張なんてしなくていいよ。ここの仕事は本当に楽だ」
余計なことを考えなくていい。だから、ここほど過ごしやすい場所はない。それが彼の弁だった。
「君も、気楽に構えていなさい」
そして、肩をポンと叩かれた。
実際、仕事は楽だった。いや、楽を通り越して暇であった。
とにかく、やることがない。パイプ椅子に腰掛けて、薄暗い廊下の先を睨みつけるだけ。
そんな時っていうのは大抵、考えなくてもいいことを考えたりするもんだ。
例えば、今の俺がそうだった。
昔のことを思い出した。もうあれからずいぶんと時間が過ぎたような気がするけれど、実際にはそれほどの時は経過していない。あれはたしか、そう、王様がへんてこな法律を作って間もないころだ。
――ああ、俺は、今。
君の好きだった物たちを、守っているらしい。
ごん、という鈍い音が響いた。
なんだと思って足元を見ると、そこには腰に下げたホルスターにしまっておいたはずの小型拳銃が落ちていた。どうやら、完全には収められていなかったらしい。
黒光りする手のひらサイズのそれを掴むと、ずっしりとした重みが伝わってくる。なんとなく不快感。どうしようもなく嫌悪感。
子供の頃は、まさか自分が将来こんなものを手にすることになるなんて、少しも考えていなかった。
人生って不思議ですね。
なんとなく、手にした拳銃を構えてみた。
薄暗い廊下。その先に敵がいると仮定して。
両手でしっかりと拳銃を包み、両腕を伸ばす。右手の人差し指は引き金へ。僅かに荒くなっていた呼吸を落ち着ける。訓練で何度も行った行動。
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