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「菓子の強奪は重罪だぞ」
たしか文面上は五十年以上の懲役だとか書かれていたが、そんな生やさしい判決が下されるはずがない。なんたって王様は無類の菓子好きなのだから。
「だから、わかってるって言ってるじゃないですか。しつこいなあ。そんなんじゃ彼女なんてできませんよ?」
「うるせえ」
俺は拳銃を構えた。狙う先は、目の前の男の、その頭。
「……穏やかじゃないなあ」
男は、拳銃を見てわずかに表情を変えた。こめかみの辺りから緊張感が漏れ出している。目には見えないが、なんとなくわかった。
「たかが菓子を守るために、拳銃を持っているんですか君は」
「君なんて言うな」
お前、俺よりも年下だろう。俺のその言葉に、男は頷く。
「僕はまだ未成年ですから」
「だったら、君じゃなくてあなたって言うべきだろうがよ」
「これは失礼」
気に食わない笑みを浮かべながら男は頭を下げ、
「……これはしょうがないですね」
両手を上げた。
「はあ?」
なんのつもりだ。彼の行動の意図を分かりかねた俺がそう尋ねると、
「いえ、なに、大した意味はないんです」
今日は帰らせてもらいますよと、そう言った。まさか拳銃だなんてね。そんな物に対抗出来るような物を今は持ちあわせていないので、菓子は奪えそうにないですからね。そんな言葉をひと通り吐き終えると、あっさりと彼は踵を返すのだった。だけど俺はまだ拳銃を下ろさない。不意打ちを狙っている可能性だってある。これでもひと通りの訓練をこなしてきたのだ。こんな場面で気を抜くということは、即命を落とすことになりかねない。よく理解しているつもりだった。
しかしそんな俺をあざ笑うかのように、
「それでは」
片手を挙げたくらいにして、男は一歩一歩確実に遠ざかっていく。
「ああ、そうだ」
言い忘れていました。男はそんな言葉と共に振り向くと、
「僕の名前は、ネコタと言います」
「聞いてねえよ」
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