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次の日も、その男――ネコタは姿を現した。昨日と同じ格好で。
「驚き半分、嬉しさ半分、といったところですか」
「あん?」
「てっきり、もっと警備を強化しているだろうと思っていたので」
ネコタの言うとおり、俺は昨日と同じく一人で警備にあたっていた。
昨日の事を誰かに話さなかったのか、とネコタは俺に尋ねる。
「昨日?」
さて、なにかあったかなあ、とわざととぼけたように言ってみると、
「舐めてるんですか?」
「舐めてるのはお前の方だ」
俺は昨日彼に対してやったように、ホルスターから拳銃を抜き、そして構えた。
「昨日、お前は知ったはずだ。俺が、俺達がこういった物を所持していると」
そして、昨日こう言って去っていったはずだ。そんな物に対抗出来るような物を今は持ちあわせていないので、菓子は奪えそうにないですからね。そう、今は、と言っていたのだ。今は持っていないから帰る。そして再び現れた。ということは、
「なにか、持ってきたんだろう?」
武器を。拳銃に対抗出来る――とネコタが考える――程度の、なにかを。
「まあ、一応は」
とは言っても、大した物は用意できなかったんです。まるで自分の不手際を謝罪するような声と言い方だった。ネコタは言いながら上着の内側に手を入れ、
「こんなものしか」
ニヤニヤと笑いながら、その手を出す。握られていたのは、小さな――小さな小さな、果物ナイフのようなものだった。
「はあ?」
思わずそんな声が漏れる。拳銃を握る腕から力が抜ける。こんなこと言いたくはないけれど、ひょっとしたらこのネコタという男は、
「馬鹿なんじゃないか?」
「失礼ですねえ」
いや、だって、一体どんな物が出てくるのかと思ったら、登場したのは小さな刃物で。
「そんなもんでどうにかなると思ってんのか?」
「まあ、一応。考えて持ってきたので」
「……へえ」
へえ。なるほど。なるほどなるほどなるほどなあ。
俺はある結論に達する。
「お前、俺を舐めてるだろ」
「……そんなつもりはないんですがねえ」
正当な評価を下したつもりなんですが。そんなことを真面目な顔で言うネコタは、どうやら俺をイラつかせるのが得意らしかった。
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