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「上等な菓子は、すべてターミナルに保管された。
「男はそこに忍び込んだ。そして扉の前の警備員をボコボコにして、扉を開けさせた。まんまとターミナルに入ったわけだ。
「だけどすぐに応援が来てな。男は捕まった。
「男はまだガキと言ってもいい年齢だったし、菓子を奪う前だったこともあって、命を奪われることはなかったけれど、しかし牢屋にぶち込まれる。
「そしてそこから出た頃には、すでに女は死んでしまっていたのさ。
「面白いだろう。笑えよ」
だけどネコタは笑わなかった。
「……それは、だれの話だ」
「答えが解っているのに質問をするのはずるいぜ」
「なんで平気な顔をしてここに立っていられるんだ!」
彼女のことを思い出さないのか。その質問に俺は、
「思い出すよ」
「なんで、ここにいられるんだ」
「簡単な話だ」
ここには、彼女の欲しがっていたチョコレートも保管されている。
「ただ、それだけ」
「馬鹿じゃないのか!」
「馬鹿だよ」
そんなもんずいぶんと昔から知っている。
「いつまでもいつまでも、彼女の思い出にすがって生きてきて、そしてこれからもそうしていくのか!」
「そのことのなにが悪い」
「悪いさ!」
前進できないだろう。そう言われたけれど、無理して前進する必要はないんじゃないかと俺は思う。だって、前だけに道があるわけじゃないだろう?
「あんたは駄目だ。このままじゃ駄目だ。駄目だって!」
「俺のことなんかどうだっていい」
今ネコタが考えるべきなのは、菓子を手に入れられるか、否かということだ。
「違うか?」
だけどネコタは、でも、とか、駄目だ、とか呟き続けている。そんな彼を見ながら、俺は思った。
菓子の強奪は重罪。
面白い。
ぶつぶつと呟き続けるネコタを、俺は思い切り殴りつけた。そして尋ねる。
「おいお前。どうしたい」
「は?」
「菓子が欲しいかと聞いている」
「ほ……」
欲しいに決まっているだろう。そのためにここに来たんだ。即答だった。
「……そうか」
オーケーオーケー、わかったよ。
俺は背後の扉に向かい、ロックを解除する。
「……なに、やってんだ?」
訝しるような声。
「なにやってるんだ、だと?」
冷気が体に襲いかかる。
「扉を開けている」
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