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さわさわと校庭に一本だけで堂々と咲き誇る桜の木が風に吹かれてそよいだ。
合わせて、薄い桃色の花びらが何枚か舞い散る。
本当、今日は入学式日和だなあ、とほんわりと思いながら校門を出た。
ぼんやりと歩いていると、なんだか景色が歪んできた。
けたたましい音が鳴り響き、びっくりして起き上がる。
視界には見慣れた自室が広がっていた。
ああ、夢だったのか、と気づく。
春休みが終わり、今日は中学新入生の入学式を翌日に控えた在校生の始業式。
入学式の時の夢を見たのは明日の入学式が迫っていたからだろう。
時計を確認すると、優に7時を過ぎていたので、もそもそとベッドから抜け出し、洗面所に。
バシャバシャと顔を洗い、髪を梳かして顔を上げれば当たり前だがいつもと何ら変わらぬ私、夏瀬茜(なつせあかね)の顔が鏡に映った。
自分の顔を見ても今日も私は可愛い、とも不細工、とも思わない。
外見的興味は、私は現代っ子にしては珍しく大して関心がない。
最低限、身嗜みを整えて、清潔感があればいいや、と考えている。
このことに関して、
「茜は恋したことないから、興味がないだけだよ。恋すれば変わるって」
と一度友人に言われたことがある。
だけど私だって、恋くらいしたことあるっての。
まあ、別に進展も何もなくクラスが変わっちゃったから終わったけどね。
そういえば、その時私、中一だったっけ。
当初は私髪短かったなあ。
あの頃を思えば随分伸びたね、我が髪よ。
鏡を見ながらそんなことを思っていたら、「茜、お友達待たせてるんじゃないの?早く行きなさい」とお母さんに忠告された。
時計を見たら友達との待ち合わせ時刻を少し回ってしまっていた。
慌てて自室に戻り、制服に着替えて鞄を引っつかんで「行ってきます」と早口で言って自転車をかっ飛ばす。
待ち合わせ場所にはすでに友達の原島樹佑(はらしまきゆ)がいて、「遅かったけど…大丈夫?」と労ってくれた。
遅れたことを責めないなんて、今更ながらなんていい子だ。
「ううん、なんでもない。遅れちゃってゴメン」
「いいよ、そんな待ってないし。…今日クラス替えだね」
「え…あ、そっか」
言われて思い出した。
今日は始業式という名のクラス替えだ。
「一緒のクラスになれるといいね」
「本当にねえ」
クラス替え前にありがちな会話を繰り広げていたら、いつの間にやら学校についた。
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