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鏡に映る女性はただ椅子に腰かけ、何かを握りしめ、こちらに気づいたのかゆっくりと振り返った。
前髪はいわゆるパッツンで綺麗に揃え、後ろ髪は背中まで続く黒く美しいはずのロングだが、窓から入る微かな青い光に照らされ蒼々とみえた。
大きな瞳を見開き、薄くも厚くもない唇は三日月を示し、大きさも高さも合わせられることもなく横に並べられた白い角砂糖を、三日月を分割するように剥き出しにして、じっとこちらに微笑みかける。
鏡に僕の姿はなく、僕の手元には歪な形を纏いコンセントがささるでもなく暗い光を放つランプシェイドが、僕と鏡に映る女性を僅かに繋いでいるかのように思えた。
なぜ、鏡だと思ったのだろうか。
自分がうつるでもなく、そこにはガラス板をはさむかのように一人の女性が座っているだけなのに。
僕にはそのとき不思議に鏡としか認識ができなかった。
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