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無理だよ、原田さん。
土方さんはもう、俺を許さないよ。だって彼は山南さんすら許せなかったんだ。
俺、彼を…土方さんを信じよう信じようと思って随分長いこと苦しんだんだけど、でも悲しい事に、彼はもう俺が信じてた彼とは違う人間になってしまったんだよね。
試衛館にいた頃、何だかんだ言いながら俺達に甘かった土方さんは、もうどこにもいないんだよね。
「藤堂!!」
いつの間に回り込まれたんだろう。永倉さんは頭が良いから、俺の逃げ道なんて全部お見通しなんだろうな。
永倉さんの声なんて久しぶりに聞いた。もしかしたら俺が離隊して以来かもしれない。
(ああ、『藤堂』、か)
正面から斬り込まれたから、俺はすぐさま居合いでその刀を受け止めた。永倉さんの後ろからもぱらぱらと隊士達が集まって来て抜刀して、ああもう俺、これは死んだなあなんて思っていたら、永倉さんが見たこともないような怖い顔で叫んだ。
「藤堂は俺が仕留める!手出しは無用、お前達は他の謀反者を追え!」
渋っている隊士達に、早く、と永倉さんが追い打ち。そうやってお喋りしてる間も俺と斬り結ぶ彼の刀はずっしり重くてびくともしないんだから、やっぱりこの人はとんでもなく強いんだって実感する。
折角獲物を追い込んだのに、追い払われちゃう隊士の皆にちょっと同情。知ってる顔もちらほらいる。
ほら、あれなんて八番隊の隊士だ。俺がまだ新撰組に居た頃は、魁先生魁先生って、俺について回っててさ。一緒に飯だって食べに行ったし、毎日一緒に稽古もしてたし。
俺皆の事結構好きだったけど、面白い事に、今はお互いかたき同士なんだもんね。思わず走ってって『久しぶり、元気にしてた?』なーんて話しかけそうになる。そしたら今まで通り笑いかけてくれるんじゃないかって、馬鹿げた錯覚だって起こしちゃいそうになるんだ。
永倉さんの刀、重い。
身の丈はそう変わらないのに、ぐいぐい圧されてる。ざりざり音立てながら、俺の足は後ろに滑ってく。何してるんだろう。永倉さんなら一瞬で終わらせられる筈なのに。いつもみたいにその刀翻して降り下ろせば俺なんて真っ二つ。俺が抵抗する気無いのもわかってんだろうに。
永倉さんが一度後ろに飛びのいて、今度は上段下段と次々斬りかかってくる。なのにどれも急所を狙ってこない。永倉さんは俺が受けられる刀だけ、浴びせてきている気がした。
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