The Last Memory

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「はっ」 さすがに息が切れる。 少し距離をとって体制を立て直したいのに、永倉さんはそんな隙与えてくれない。打ち込まれる俺はどんどん後退していく。変だと思った。 「なが」 永倉さん、と呼びたかったのにそれを許さないようにまた刀が降ってきた。 隊士達の声も聞こえない辻まで俺を押し出したところで、永倉さんが微かに唇を動かした。 へえすけ、という形を作ったその唇にずきんと胸が痛んで、永倉さんの刀を受けるのを忘れそうになった。 ぎりぎり斬り結んで歯こぼれ。 力を均衡させた二振りの太刀の向こう側で永倉さん、ねえ。 あなた何て顔してるんだ。 「お前は足が速いから逃がさないようにしないといけないな」 斬り合いの最中とは思えない穏やかな声で言って、永倉さんの眉が優しく下がる。俺、永倉さんのその顔が一番好きだ。 その言葉には何か真意がある筈だから、俺は真っ直ぐ永倉さんを見る。 「…一度逃してしまったら追っても無駄だからな。特にこんな誰もいない小路じゃ、お前を逃がしたが最後、俺はお前に追いつけない」 なんてこった。この人も原田さんとおんなじ部類。やり方が違うだけで、お人好しが服を着て歩いてるみたいな人なんだ、ほんと。 (逃げろって、言ってるようにしか聞こえないよ) 永倉さんの暗い色の瞳が優しい光を投げかけてくる。俺が言葉の意味を飲み込むための時間をくれながら永倉さんは、斬り結んでいる刀にかける力をどんどん軽くしていく。 俺が刀を押し返して走り出せば彼は、俺を逃がすんだろう。 逃がして、帰って、取り逃しました、と悔しそうな顔を作ってみせるんだろう。 あんたはすごいよ、永倉さん。 俺は永遠に、あなたには敵わないんだね。 目だけで頷くと永倉さんが一寸笑った。俺も一寸だけ笑って、そして一息置いて、永倉さんの刀を弾き返した。 「おのれ藤堂!」 永倉さんがわざとらしく叫ぶ声を背に、俺は宵闇を背負って走り出す。 そこまでは良かったんだ。
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