The Last Memory

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あっ。 誰かが叫んだ。 永倉さんだろうか。 いや、俺かもしれない。 (たぶん俺だ) 背中を思いきり殴られたんだと思った。そういう衝撃だった。 驚いて、抜き身の刀引っ提げて、そいつをぶんと回して振り返った。 後ろの男の、飛んでいく首と目が合った。 それが三浦だったんだ。 細切れになって見える景色。 離れていく三浦の頭と体。 その隙間を縫うように飛び散ってそして伸びていく生温かい血飛沫。 景色を塗り潰す真っ赤な血糊の向こう側に、立ち尽くしている永倉さんが見えた。 俺は三浦を斬ったんだ。 へいすけ、と永倉さんの口が動いたように見えた、のに、声が、聞こえない、のは、何でだろう。 脚がまるで作り物みたいにかっくんって。力が抜けてその場に前のめりに倒れ込んで初めて俺は、背中に感じたあの衝撃は自分が斬られたからだったんだって事を知った。 わかった瞬間傷口が死ぬほど痛んで、俺は呻いた。…と思う。口が勝手に開いて声帯がふるえた。でも何でか声が聞こえないんだ。 地面に押し当てた頬で足音の振動を感じて目を開けた。ごろんと転がされて仰向けになった。 ぐちゃぐちゃに泣いている永倉さんがいた。俺、永倉さんが泣いてるのって初めて見た。ねえなんで泣くの。いつも泣かなかったじゃない。芹沢さんが、死んでも、山南さんが、死んでも、あなたは泣かなかったじゃないか。 ねえ永倉さん。 (俺、死ぬの?) へえすけ。 へえすけ。 へえすけ。 永倉さんの口が動くのに、やっぱり声は聞こえない。呼吸が上手く出来ないのはたぶん、肺までざっくり斬られちゃったせいで、俺は泣かないでと言いたいのに、俺の口からはひゅーひゅーと風の音がするだけなんだ。 駄目だよ永倉さん。 平助なんて呼んだら駄目だ。 俺達は、今、敵なんだよ。 目の端に、三浦の顔が転がっているのが映った。その顔は土方さんに怒られてる時みたいになっさけなく歪んでて、俺はなんでかそれがかなしくてしょうがなかった。 へえすけ。 へえすけ。 へえすけ! 呼んだらだめだよ、ながくらさん。 何でって、あれ? なんでだったっけ。 もうわすれた。ねむい。 初めて試衛館に行った時の事をなんとなく思い出しながら、俺は睡魔に負けて(いやもしかしたら死神に負けて)、泣きじゃくる無音の永倉さんを最期の記憶に、深いふかいねむりにおちていった。
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