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「ってぇ…」
咄嗟についた手のひらを擦りむいて、俺は顔をしかめた。
そしたら原田さんが高下駄をからから鳴らしながら近づいてきて、俺の横に転がってた刀をひょいと取り上げてしまった。
「餓鬼がこんなもん遊び半分に振り回してんじゃねえ」
「ちょ、ふざけんな!返せ!」
慌てて立ち上がって俺は情けなくも原田さんの持つ俺の刀に飛びついたけど、何食べたらこうなるんだか、くそでかいんだこの人。ちっとも届かないで歯噛みしている俺を見て、原田さんは今の今まで怒っていたのが嘘みたいにからから笑って、そして刀を持ったまま門の中に消えてしまった!
「おいどこいくんだよ!」
俺はもちろんあとを追って試衛館に転がり込んだ。(文字通り!)
狭い庭と、古びた民家と、粗末な道場。原田さんは道場に向かってずんずん歩いていく。追いついたって原田さんが持っている限り刀は取り返せそうになかったから、俺はむすっとしながらついていった。
原田さんは器用に足だけで下駄を脱ぎ捨てて道場の中にずかずか上がり込み、そして道場の一角、天井近くに据えられている神棚に、俺の刀を供えて手を合わせた。(その仕草が原田さんの巨体に妙に似合わなかったけど)
振り返った原田さんは不服顔の俺を見てにぱっと笑うと、壁に並べてあった木刀を一本、俺に投げてよこした。仕方なく俺も下駄を脱いで道場に上がる。
「…なんのつもり?」
「見りゃわかんだろ、試合だ試合。もめ事の時ぁこれに限るだろ」
そう言って原田さんは隅に一本だけ立て掛けてあった竹槍を手にとった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。まさかそれで試合う気じゃ…」
俺が慌てると原田さんはア?とチンピラみたいに睨みをきかせてくる。
「実戦で敵に向かって『槍は反則だから刀にしてください』って頼むのかおめーは?俺の得物はいつだってこいつだ」
嫌とも言わせない様子の原田さんは鋼のように固そうな腕で神棚を指す。
「手前が勝ったら刀は返してやら。んで、俺が勝ったら…」
だっ、と原田さんが道場の床を蹴って飛び出す!
「名ぁ名乗れ!!」
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