horse therapy

5/6
前へ
/16ページ
次へ
 それまで俯いていたアルフの視線が、頻りにある方を向くようになったのだ。   「アルフ君、あの馬が気になるのかい?」    他の馬とは違い、一頭だけ馬房の中で座り込んでいる小さな馬。    すると、先程まで星の言葉には耳を貸さなかったアルフが、星の方を見て返答した。   『あのコには乗れないの?』    やっと喋ってくれたことに星は喜びを感じたが、同時に戸惑いもあった。    アルフが視線を送っている馬は脚が悪く、長い時間立っていることができないのだ。  しかし、ずっと馬房でじっとしていると、血の巡りが悪くなって脚が腐ってしまったり、心臓に負担がかかったりしてしまう。    だから担当者である星はその馬の脚のケアを欠かさない。       「あの馬は……」    脚が悪い。  星はその事実をアルフに伝えるべきか悩んだ。        そうやって星が悩んでいると、アルフは意外なことを口にする。   『あの馬、カッコいいなぁ』        その言葉は星に強い衝撃を与えた。    普通の人なら、馬なのに脚が悪いなんて可哀想、などと思うだろうが、アルフは違った。    脚が悪いことがどれだけ大変なのかわかっているため、その馬の苦労が伝わってくるのだろう。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加