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「綺麗だなー…」
クリスマスイブの夜。
時刻は午後11時半を回ったところ。
今日は聖夜に相応しく星の瞬く晴れ渡る夜空はまるで、寄り添い歩く恋人達を祝福するかの様で、見上げた先には見事な程大きなX'masツリーが燦然と輝いている。
此処は普段はただの公園だけど、X'masにはこのツリー見たさに1番人気の待ち合わせ場所になる。
僕も待ち合わせのその一人。
でももう、待ち合わせには随分遅い時間で。
見渡せばいつの間にか此処には僕一人しかいなくなってしまっていて。
温かい筈のコートもマフラーも手袋も、もうずっと前に意味を無くして、HOTで買った缶コーヒーも手の中で冷え切っている。
ふとツリーの隣にある公園の時計を見ればもう、4時間半も座っている。
来ぬ人を待ってどうしようって言うんだろう、僕。
馬鹿みたい。
それでもどうしてか此処から動けなくて、こうしてるんだけど…。
「せんぱぁい…」
会いたい、とは独り言でさえ言えなかった。
忙しい人なのだ。
我が儘を言ってはいけない。
今日だってそうだ。
1ヶ月振りにまともに会える機会、それもX'masイブの夜だったのに。
来られない理由はいつもと同じ'仕事'だから。
卒業したら父の会社を継ぐのだと、何度も聞かされていたからどんな時も我慢した。
今日も。
社会人と学生は違うのだ、と。
立場が違うのだから堪えなければ、と。
そう、思って。
元々、僕を常に側に置いておきたがる様な甘く優しい人ではなかったし、恋愛より仕事を優先するだろう事は先輩の学生時代に十分わかっていたし。
学校と言う場所的接点が無くなった今、居ない人を想って寂しい思いをする事は分かり切っていた筈なのに。
今日は恋人と過ごすと言っていた友人達の嬉しそうな姿を見て、羨ましくなってしまったのだ。
つい今朝までは今日は何をしよう、何を話そう。
まるで付き合いたての頃みたいにドキドキして緊張して。
洋服を選んで、何度も鏡を見直して。
先に出掛けた友人達を微笑ましく見送って。
6時30分。
出かける直前にキャンセルのメールが来るまでは。
確かに久し振りの幸せに浸っていたのに。
どん底に落とされた。
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