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「信号変わる」
頭にぽん、と手を置かれてはっとする。
レンはサングラスをかけ直して私の後方へと歩いて行った。
私は慌てて走り、横断歩道を渡りきってから振り返ってみたけれど、レンの姿はもうなかった。
鼓動が激しいのは、走ったからじゃない。
ギュッと胸に手を押しあてる。
深呼吸をしてから、手に握ったままの名刺を見た。
店の名前、源氏名、携帯の番号やアドレスなどが書かれいる。
水嶋 蓮……。
源氏名も、イメージ通り格好いいなぁ……。
ふと、源氏名の上に書いてある文字に気づく。
だ、代表……!?
蓮は、見たところ20代前半。
いくら容姿が良くても、それだけで役職を持てるほど甘い世界ではないはず。
蓮は、どんなことをしてその地位を手に入れたのだろう?
客相手にお酒を飲んで話すだけで…とは考えられない。
下世話な想像をしてしまいそうになり、それを打ち消そうと頭を振る。
蓮は、私の知らない世界の人。
名刺を渡したのは、きっと私を客にしようとしているのだろう。
なぜか胸が痛み、ため息をつく。
早く帰ろう。
これ以上蓮のことを考えたくなくて、名刺を通勤バッグの内ポケットに押し込み、駅へと走り出した。
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