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カーテンから差し込む朝の光に、目を覚ます。
夢……か。
「はあ……」
夢の中と同じどんよりとした暗い気持ちのまま、思わず溜め息がこぼれ落ちる。
10年以上も前の記憶なのに、未だに夢でうなされるほどトラウマになっている。
でも、今の私はあの頃とは違う。
着替えを済ませて顔を洗い、洗面所の鏡の前でメイクを施す。
アイプチをして、つけまつげもつけ、カラコンを装着。
最後にベビーピンクのグロスを塗って完成。
「よしっ」
鏡の中で、二重で大きな目の私が嬉しそうににっこり微笑んだ。
一重だった瞼は長年アイプチを使用して奥二重になったけれど、もっとパッチリさせたいから今もアイプチは手放せない。
自分がしたいメイクをして、お洒落する。
私は努力して、理想の自分を手に入れたのだ。
通勤客で混み合う電車を降りて駅を出ると、信号を渡って繁華街へと向かう。
今日から二月。
まだまだ寒いけれど、日差しはぽかぽかと暖かい。
繁華街の中央に位置するショッピングモールの入り口に着くと、私は一度立ち止まった。
職場へ行くには、このモールを通るのが一番の近道。
しかし、ここを通るのは私にとって苦痛なことなのだ。
モールには、客を捕まえようと狙うホスト達がうろついている。
一年前、今の職場で働き始めたばかりの頃は、まさか朝からホストに会うとは思わず驚いた。
中にはしつこくついてきて、中々離れてくれないホストもいる。
私はホストクラブに行くほどお金もないし、行きたいとも思わない。
だって、派手な男の集団なんて怖い。
馬鹿にされるのでは、と身構えてしまう。
小学校、中学校と、地味な外見から男子にからかわれることが多かった私は軽い男性恐怖症になった。
高校は女子校に進学したほどだ。
まぁ、28歳になった今では普通に男の人と接することはできるし、人並みに恋愛経験もあるけれど。
ただ、トラウマというのは根深いもので、ホストに限らず男の人が集団でいるのを見ると、未だに怖くて胸の動悸が早まる。
それに、集団じゃなくてもホストのキャッチは苦手。
なるべく目立たないように早足で道の端を歩き、途中にあるコンビニに素早く入った。
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