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カーテンからこぼれる暖かな朝日で目が覚めた。横には幸せそうな顔で眠っている彼女がいる。
程なくして頬にキスをして優しく起こす。
「ん…おはよぅ」
彼女はけだるそうに、伸びのポーズをとってボクに優しい微笑みを剥け…くれる。
ボクはそんな彼女がの笑顔が好きだった。
「さて、っと」
彼女は目線を壁にかけてある時計の方に移すと手早く支度を始める。
時間は7時半…。
「行ってくるね」
そう言って彼女は出かけた。
肉親でも友人ましてや恋人ではないボクとこんな同居生活が始まったのは丁度、1週間前の事である。
1週間前…。
それは小雨が降りしきる寒い夜の事…。
ボクは駅の片隅で行く当てもなく震えですうずくまっていた。
どれくらい時間が経ったのだろう…?
ふと、目をやるとそこに彼女が立っていた。
傘もささずに、悲しそうに優しく微笑んでボクを見つめている。
彼女は泣いていたのだろうか…雨が涙を隠している。
濡れた瞳でボクをじっと見つめ、前髪からは雨の雫がポタリと落ちては消えてゆく。
雨に濡れた彼女は神秘的に美しく、透けたブラウスが肌に張り付いている。
多分…ボクは彼女に魅せられていたのかもしれない。
彼女はボクに近づき手を差し伸べてこう行った。「どうしたの?うちにおいでよ」
ボクは彼女に引き寄せられるようについて行った。
駅から、繁華街を通り抜けると駅前とは違って静寂に包まれた住宅街を彼女と並んで歩く。
先程の小雨はいつのまにか、止んでいた。
しかし、冷たい空気が身震いを起こさせる。
彼女は自分を抱きしめるかのようにして足早で歩く。
ボクはそんな彼女の小さな背中を見ながら後を追う。
気づけばボクは彼女の家にいる。
それからボクと彼女の奇妙な同居生活が始まった。
ボク以外誰もいない静かな部屋でウトウトとまどろみに誘われて…。
あの時彼女は彼氏に降られたのだろうか?
寂しさを紛らわす為にボクを連れて来たのかもしれない。
ボクはそれでも構わなかった。
たとえ、夜の慰みものであったとしても…だ。
ボクの願いは一つだけ。彼女のそばにいる事…。それだけ…。
そんなコト考えながら眠りに飲み込まれていった。
ボクは彼女をアイシテル「ただいま、大人しくしてた?」
彼女が優しく微笑みながら頭を撫でてくれる。
あぁ…この時がいつまでも続けばいいと…。
しかし、ボクには彼女を愛する資格がない…。
ボクは犬だから…。
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