第二話 首都脱出と旅商人

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 俺は残波黒刀を引き抜き、すかさずそれとは反対の左手に詠唱を省略した魔術で電気を起こし、心臓の止まってしまった男に放った。  男の体が、大きく痙攣し地面から少し浮き上がるように跳ねると、浅い呼吸が再び灯る。奴の濁った茶色い瞳が俺を捉え、怯えたようにみつめている。 「大丈夫かー? 雨で傷口からの血が止まらねーな。安心しろすぐ止めてやる」  俺はそう声をかけて、左手に炎を生成。血の止まらない奴の股間部分を焼き払った。  今度は大きく悲鳴を上げ、のたうち回っていたが、三度目になる腹への蹴りを入れると気を失った。これで、俺の目的は達成。鬱憤は晴れた。  と、そこへ、村人を連れ出したギル戻ってきた。みな同様に力なく足を引きずるように歩を進めていたが、十九人全員の命が助けられた。マーロウの子供もしっかりついてきている。  俺の足元で意識と大切な玉を失った男を見ながらギルが声をかけてきた。 「リン、何したんだ? 大きな悲鳴が聞こえたが」 「ん? 去勢手術」  呆れたようにギルが首を傾げ表情を変えた。俺が何故、ギルを止めたのかを察したようだ。  しかし、直ぐに笑顔に戻ると俺に拳を突き出して言った。 「なにわともあれ、大成功……だな」 「あぁ、そうだな」  俺も笑顔でギルの拳に自分の拳をあてがった。
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