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上空を見上げた奴らに、ざわざわと驚きが伝染していく様子が見えた。奴らの視線の先には、俺が魔術で浮かべた川の水が、大きな球体となり、時折重力により形を変えながら浮かんでいるのだ。
それも結構な量の水を浮かべたので、それが落下してくるとなれば、死にはしないものの、痛いじゃ済まないだろう。
当初の勢いのなくなった帝国騎士団に、はぐれていた本隊が合流した。
「待ってました!」
声を張り上げて俺は言った。状況の理解の追いつかない本隊と、我先にと水の玉の下から逃げだそうとする騎士。港は混乱に包まれた。
「汚物はキチンと流さねえとな」
そう言って、乱雑に右手を振って魔術を施行する。愉快でしょうがなかった。突然の川の氾濫に、上ばかり警戒していた帝国騎士団は瞬く間にのまれていったのだ。
「えげつないな、お前」
一部始終を見ていたギルが、流されていく帝国騎士団に哀れみの表情を向けながら言ってきた。
浮かべていた水を川に戻して、ギルに向かいなおる。
「んでだよ、ただ警戒を別に向けさせただけだろ?」
「いや、でも浮いてた水でも十分アイツら流せただろ」
ため息をつきながらギルが言った。どうやら、俺のやり口が気に入らないらしい。分かってないなぁ。
「普通にやっても、楽しくないだろ?」
満面の笑みで言った。やはり、こればっかりは譲れない。流されていった奴らの表情を思い浮かべて楽しくなった俺は、口笛を引きながら船の中へと足を運んだ。
間もなくして、船は対岸へとたどり着いた。
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