第四話 熱砂の街と神に嫌われた僧侶

2/56
2399人が本棚に入れています
本棚に追加
/1695ページ
 細かな砂を含んだ熱い風が、俺の顔を撫でる。砂漠に踏み込んだ当初は鬱陶しく感じたそれも、今や気にならない。いや、気にする余裕もないと言った方が適切か。  砂漠に踏み込む際に、馬車のまま行く訳にはいかず、ミラルカから譲って貰ったラクダに揺られながら、既に三日も灼熱地獄のこの地をさまよっている。  最早、自力でラクダに跨ることも出来なくなったレシエルを抱きかかえながら、俺はパサパサになった唇をお情け程度に舌で舐めながら後悔に頭を痛めていた。  ミラルカの忠告を聞いていたら! そればかりが、ぐるぐるぐるぐる頭の中を駆けめぐっていた。  二日前、帝国騎士団を流した後に難なく対岸の荒野に降り立った俺たちは砂漠を渡る際に、利用される砂虫と呼ばれる、巨大な芋虫のような生き物を使おうと考えていた。 「この時期、砂虫は繁殖期で気性が荒い、オススメはできませぬ」  ミラルカが言った。あの時に、ちゃんと聞いていたら良かったのに、過去の俺は。 「問題ねえよ。いざとなれば黙らせてやればいい」  無謀にもミラルカの考えを退けた俺は、さも当然と言った感じで言った。砂虫を扱うのに難しい訓練も資格もいらない。誰もが見た事もある古典的な方法が効果的なのだ。  馬の目の前に棒にぶら下げた人参を見せびらかせて、届き得ない餌を追いかけさせる。  そんな、ちょっと古いコメディーのような方法が砂虫には、効果覿面だった。
/1695ページ

最初のコメントを投稿しよう!