第一話 首都バグズドールと黒の騎士団

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 ――3月。火の域、帝国ニチリン首都バグズドール。  春が近いというのに、街が酷く凍えた日だった。夜が深いため、火の域最大の城下町であるバグズドールも今や活気はない。満月が白焼きのレンガで丁寧に舗装された道路や所狭しと並ぶ大小様々な建物を淡く照らしている。  そんな景色の中、バグズドール城の敷地内の、とある場所にある、とある扉の前で、俺とは扉を挟んで隣にいた男が吐き出す息が白く濁った。 「やっと故郷に戻れたのに警護の任務がはいるとは、ついてないな」  漆黒の鎧兜に身を包んだ騎士が溜め息をはきながら、言葉をもらす。  手にした槍を掌で転がし、反対の手で兜の蝶番で開閉のできる部分を上げて酒を煽りつつ似た様な格好をしている俺に呑気に言葉を放つ。 「あんたも、そうおもわないか?」  こちらを向くわけでもなく言った男に、悟られないように小さく舌打ちし、会話に参加しないように心がけた。  随分と呑気なものだ。  仮にも命がけの仕事の最中に、酒なんかあおりやがって。気が抜けてやがる。集中しろよ、酔っ払いめが。と心の内で悪態をつく。
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