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「ちょっと、どうしたの!?」
いきなり、誰かに腕を掴まれる。それを振りほどこうと振り返ると、そこには見覚えのある彼女の瞳があった。
その瞳は、アイツと同じで。俺の事を心配している眼。
「くそ、どいつもこいつも……っ!」
彼女は、不思議そうに俺を見ていて。俺は、それが嫌で顔を手で覆った。
本当の自分が、情けない。それを見られそうで。
滲んでいる涙を拭い、俺は眉を引き締める。
「これ、ホワイトデーのクッキー」
声が情けなく萎れないように気をつけて、クッキーの袋を突きつけるように差し出す。
彼女は目を丸くして、それを受け取る。
「バレンタインは返せないから要らないって、ずっと言ってたよね?」
「いいから、食ってみてくれよ。……手作りだから」
付け足したように言ったのは、見栄を張るため。
目を伏せているのは、絞った勇気が四散してしまわないように。
彼女は、そんな俺を尻目に、アイツが好きだったバタークッキーを一口かじる。
「うんっ、おいしいっ。やっぱり天才だねぇ」
何も知らない故か、俺への優しさか。とにかく、彼女の笑顔が眩しかった。
何故、そうしたのかは分からないけど。俺はゆっくりと手を伸ばし、彼女を抱きしめた。
体はそこにあって、彼女はそこに居て。
手で触れられる、温度を感じられる。
自分が今まで引きずっていたモノは、結局自分の為でしか無かったんだと言うことを、実感させられた。
彼女はいきなりのことで混乱したみたいだけど、ゆっくりと、俺のことを抱き返してくれる。
ちらと、視線の端にアイツの姿が見えた。その目は今にも泣きそうで、その口元はへの字に曲がっていた。
ありがとう。そして、さようなら。
「Happy White Day……!」
やっと、渡せた……。
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