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翌日、積雪の多いこの町には雪が降った。何てことはない、俺達のやることはいつもと変らなかったよ。チャンバラが雪合戦に変るだけだ。
小学校に行って、俺が勉強しているとき、アイツは絵を描いて。俺が粘土で自分の手を創作しているとき、アイツは剣を作っていた。
「あ、そうだっ。あたし、自分でチョコレート作るから。あんたも自分で例のものをつくりなさいよ! そうすれば、むふふふ」
変態的な笑いを浮かべているアイツの表情は、今でも覚えてる。
大方、俺が作り方を覚えれば、いつでも好きなときにクッキーを食べられると想像したのだろうが、現実はそう甘くない。
「忘れたら、ホワイトデーの日に一生涯クッキー貰うからね! あんたが結婚したとしても、ずっとクッキー貰ってやる」
そういうアイツはとても活き活きとしていて、むしろ忘れてくれ、と言っていたっけ。
そして、ホワイトデー当日、俺は忘れずに、母さんの力を借りて作ったクッキーを持って、いつもの川べりに走った。
何故だか俺は遠足気分で、母さんにも明るく見送られて家を出た。
雪が降った後の晴天が目に痛くて、うきうきした気持ちを抑えられなかった。 その日の白辰川は表面が凍っていて、太陽の光をキラキラと反射していた。
「遅い!」
俺が川べりに着いた頃、アイツは既に雪の上に座っており、声色から大分待たせていたのが分かった。
待ち合わせの時間に、俺は一分も遅れていなかったわけだが、そこらへんはいつもどおりだった。
川の向こう側に居るアイツに手を振り、俺は川に足を踏み入れた。この季節のこの川は、表面が分厚く凍っていて、上を歩いても平気なのだ。
と、俺はたかをくくっていた。
「あ、危ないっ!」
アイツの声が聞こえたときはもう遅く、俺の足元の氷は無残にも砕け散った。同時に、俺の体は宙に浮き、その直後冷水に叩きつけられた。
今考えれば当然の結果だ。その日は晴天、雪の日より気温は確実に高かったはず。
キラキラと輝く川のメッキが剥がれて、魔物のような水が俺を襲った。
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