1人が本棚に入れています
本棚に追加
氷になる直前の水の温度は冷たくて、俺は一気に体温、体力、気力を削り取られた。
息苦しくて、凍りつくような寒さに抵抗できなくて、だけど意識だけはハッキリしていたのを覚えてる。
そのとき、俺の服を何かがぐいっと引っ張り、川の流れに逆らった。
歪む視界の中で、俺が目にしたのは半裸のアイツだった。
生きたくて、生きたくて、俺は必死にもがいた。苦しかった。
息苦しさが頂点に達したとき、ふと、急に楽になった。
多分、意識を失ったんだと思う。
そして、俺が意識を取り戻したとき。俺は見たことのないところに放りだされていた。
後で知ったことだけど、俺は約三キロくらい流されていたらしい。
俺は大人たちに発見され、介抱を受けた。このときの俺はまだ、生きてることが嬉しくて嬉しくて、安心しきっていた。
しかし、安堵の眠りに付き、次に目を覚ましたとき、俺は疑問を抱いた。
何故、自分が助かったのか、と。
体に纏っている服を見て、俺は危惧した。
アイツはどうなったのか、と。
自分の体から血の気が引いて、青ざめていくのを感じた。
生きている事への安堵にも勝る危惧。俺は直ぐに家に帰れるよう、介抱してくれた大人たちに話をした。
俺が家に帰っても、アイツは家に居なかった。その数日後には、この世にも。
俺より遥か遠くに漂流していたアイツの体は半裸で、服は俺達が居た川べりに脱ぎ捨ててあったと。
知らされたくなかった。
アイツは俺を助けるために、自らの身をなげうったのだ。
勇気を振り絞って。
アイツは俺を、何度も何度も助けてくれたのに。
俺はアイツに、何もしてあげられなかった。
アイツが大好きだったクッキーさえ、渡してやれなかった。
=====
最初のコメントを投稿しよう!