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「ありがとう。本当に、ありがとうね」
少女は、ぐっと拳を握り、俺から剥がれるように距離をとった。
「最後に、我侭をもう一つ言わせて。約束はもういいよ、取り消し。あたしが言ってるんだから、絶対よ」
少女は袋から一枚、クッキーを抜き取って食べるふりをして、その袋を俺に投げ渡す。
その顔は幸せそうで、その顔が俺の記憶から一つの答えを引きずり出した。
「お、おい」
「もう、分かったから。私の事は忘れて良いよ?」
ふと、俺はクッキーを受け取っていない方の手を、少女の方に伸ばす。
しかし、そこにはもう何も残っていなかった。握れるのは、積もりに積もった想いと、冷たい雪。
そして雪の上に残っているのは、俺の足跡だけ。
「おい、俺はまだ償いきれてねぇぞ! 誰が、誰が許してくれだなんて言ったよ! 勝手に消えやがって!」
悔しくて、情けなくて。こんなに大きくなっても、心はあの頃のままで。
少しだけ、涙で視界が歪む。やめろよ、こんなんだから情けないって言われるんだ。
「ふざけんなよ! 何もできないままなんて、嫌だ! お前のために、何かさせてくれよっ……!」
鼻に詰まるような感情が、次々と込み上げてきて。抑え切れなくて、溢れ出た。
苦しくて、切なくて。無力で……。
叫んで、暴れることでしか、この気持ちを紛らわすことは出来なかった。
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