湯気

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 ずっと昔。とはいえ、僕がまだ小学校低学年くらいのことだから、およそ15、6年前のことになる。  こう言うと僕が今、何歳くらいなのかが分かってしまうのだろうけれど、僕が今、何歳くらいであるかがどこか知らない人に知られたところで大した問題にはならないだろうし、そもそもその誰かの興味を引くような事柄ではないだろうから、今から語る不思議な出来事がいつ頃起きたことかを、僕としてはだいたい明確にしておくべきだと思う。  僕が言いたいのは、今の時代に比べれば、その頃はとても古い時代だったと言われてもおかしくないような時代だけれど、もう昭和は終わって平成になっている時分だし、いわゆる「暗がりの怖さ」であるとか「得体の知れないモノの出る時間」などという話が科学の発達かなにかのおかげで眉唾に思われがちな時代にはなっていたということだ。  僕はあの頃、壁のシミが夜になるとお化けに見えて恐がるような幼い子供だったけれど、祖父と行った銭湯での出来事は、よく分からないながらも、怖かった思い出というよりもむしろ、大切な思い出として記憶の中にある。  僕はその頃、家庭の事情で、父方の祖父の家の近くのマンションに、家族で住んでいた。
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