湯気

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 その祖父の奥さん、つまり僕の父方の祖母は僕が生まれてすぐに亡くなったらしい。  らしいというのはつまり、僕がまだ物心つく前に祖母はこの世からいなくなってしまったので、ふとした折りに祖母の話を誰かから聞いたりはしたけれど、祖母に関する僕の直接的な知識は全くと言っていいほどないからだ。  僕は、おじいちゃん子だとか、特別そういうことはないけれど、祖母と直接話したりする機会が持てなかったことだけは、とても残念なことと思っている。  亡くなった祖母がどんな人だったのか両親や周りの親戚に聞くと、彼女はとても可愛いらしい容姿とお茶目な性格を持っていて、その上、頭が大層良かった人だと、感嘆とともに好意的な答えが返ってきたし、あながち死んだ人だから誇張してそのように言っているわけでもないようなのを、子供ながらに感じるところがあったのだ。  実際に祖父の家にある祖母の遺影は、なんというか可愛らしい雰囲気が滲み出るような感じがするし、その眼からは好奇心に溢れるように生き生きとしているような印象が与えられるから、実際の祖母も写真どおりに魅力的な人だったんだと思う。  その祖母が亡くなって、祖父は大層落ち込んでしまったらしい。  その落ち込み様はとても見ていられなかった程で、四人いる父の兄弟の内、長男だった父が祖父の家の近くに住んで様子をみることになった。  僕は幼い一人っ子だったけれど小学校に入る前だったし、ちょうどその頃、両親は同棲時代から住んでいた当時の部屋を手狭に感じて、もう少し広めの部屋に引っ越そうかと考えていたそうで、その話はわりとすんなり決まったようだ。  こう言うのもなんだけれど、色々、タイミングが良かったのだろう。  そうして、祖父と僕の家族は、以前より近い関係で日々を過ごすことになった。
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