挨拶

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夏に1階で見た、誰かさんの偽物の気配だ。 こちらは先に来た3人と違い、露骨に俺を見てふんと鼻で笑う。 「お前が異界の王か?ガキじゃねぇか」 俺は思わず笑みを浮かべた。 「じゃあ俺は、オジサンとでも呼ぼうか」 まっすぐで真にわかりやすい。 扱いやすい人種だなと思った。 そのオジサンが何か言い返し会話が盛り上がる前に、ミュゼが止めに入る。 「喧嘩なら後で」と言われ、ぶつぶつ言いながらも席に着いた。 夏に見た時も思ったが、結構背が高い。 質量もそれなりにありそうだが、その割には動きは軽かった。 まあそうじゃなきゃ、やってられないだろうとは思うが。 オジサンの1分程前に来た人物は、一言も喋ることなくすぐに給湯室に消えた。 それを見て、「あ」と一声出した最初の女性が後を追う。 それから少し後、給湯室から紅茶やコーヒーの香りが漂い始めた辺りで、漸くもう1人――ローブは着ているがフードは被っていない人物が、姿を表す。 「――済みません、お待たせしました」 笑顔で俺にそう言ったエートは、明らかにさっき別れた時から格好が変わっていた。 上から下まで観察して、ふうんと呟く。 「結構似合うな、その格好」 「そうですか?ありがとうございます」 スタンドカラーの上着と折り目の入ったズボンは揃いの白で、右肩から左に向かって斜めに銀色の飾り紐。 ギルド暁を表す花、ニビエラを模した銀の徽章と鷹を模した黒く光る徽章が左胸に輝き、もちろんいつものカフスとブレスレットは付けてない。 ローブに隠れて腕はよく見えないが、恐らくは何らかの飾りがあるのだろうと推測出来た。 またよく見ると、どうやら今日ミュゼの着ている服に近い。 あちらは襟元がもっと華やかでおまけにミニスカートでニーソックスだが、全体的なデザインは同じのようだ。 ついでに言うと徽章は金のニビエラ1つだけで、布の色も違う。 割と派手で奇抜な格好が好きなミュゼにしては珍しい服装だとは思っていたが、なるほど、あれは暁の正装だったのか。 「それで?「あと1人」はどうしたんだ?」 「今、来ますよ。皆さんも、お待たせして済みませんでした」 エートが俺から目を離して自分の椅子の後ろに立ち、他の人間――揃いの紺色に身を包んだ5人とミュゼに向けて言うと、それぞれ応えが返ってくる。 それから申し合わせたように、全員がその場で立ち上がった。
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