趣味

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感覚的にはいつもの「チカラ」を使った瞬間移動と同じように、瞬きした直後には景色が一変していた。 無詠唱なら「魔法」か「チカラ」かなんて関係ないようにも思えるが、実力者にとってはそうではない。 ある程度魔法に精通した者なら、他人の魔力の流れが見える。 どんな魔法かまでは見えずとも、「魔力が動いてるか否か」くらいはわかるわけだ。 戦いの最中なら気付かない、見落とすこともあるだろうが、あんな平時で、しかも私設ギルド員の力を計りに来た公式ギルド員が気付かないはずがない。 数秒遅れて転移してきた2人が、俺の姿を見付けて少しほっとしたような気配を灯す。 まあ、確かに少しはそれも考えた。 だが逃げるならわざわざ依頼書を見せたりはしない。 着いた場所は、グリセナ荒野だった。 ハルケシュからは南西に位置するグリセナ荒野の、最西端近く。 依頼のランクはS、内容は魔物「シュペンサー」の巣の破壊。 この辺にある、とだけ、依頼書には書かれていた。 ヨミの授業の成果で、シュペンサー本体の姿も巣の形も知識はある。 大きさを無視すれば蜂っぽい蟻というか蟻っぽい蜂というか、そんな外見のはずだ。 巣は蟻っぽく地面内に掘る。 「此処はお手並み拝見、でいいかな?ライルさん」 興味津々の体で、シロ。 ジャンも異論はないようだ。 俺はその言葉に反応することもなく、魔物の気配が蠢く方向へと歩き出した。 ただし歩み始めて幾らも経たないうちに、足を止める。 シュペンサーはそこまで強い魔物じゃない。 それなのにこの依頼がランクSである理由は、第一に巣が見付け辛いから、第二に巣を叩けば必然的に怒り狂った多数のシュペンサーに襲われるから。 シュペンサーの巣は、地上からではその大きさとは不釣り合いに小さい穴としてしか見つけられない。 その穴をグリセナの影に発見した俺は、どの魔法を使おうか暫し考えた。 考えながら、俺だけに必要な「魔法を使う準備」をするのも忘れない。 またも無詠唱で、魔力を練り上げ片手を上げる。 その指先の空間に強く濃く、渦巻くのは水気。 俺が選んだ魔法は、水属性の初級魔法だった。 何せ、さして難しいことをする気はない。 初級で充分だ。 すいっ、と。 軽く、上げた手を「穴」へ向かって下げる。 次の瞬間、シュペンサーの巣穴の中で、集めた水気が爆発した。
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