グリーザム

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「っと、悪い」 「いや、こちらこそ」 人込みでぶつかった相手に軽く詫びて、瞬きの後、互いに相手を見て足を止めた。 足を止めた理由は、俺と相手ではそれぞれ違った。 俺は相手の顔に見覚えがあったから。 相手はなんと笑えることに、俺の容姿に目を惹かれたらしい。 いやー、残念だったな、偽装で。 「姉さん美人だね。1人かい?暇なら俺とちょっと遊ばないか」 小さく口笛を吹いて言った男に、俺は首を傾げる。 少し先を歩いていた連れ2人が、止まった俺に気付いて振り返った。 俺は問う。 「お前、なんで此処に居るんだ?人間のくせに」 うっかり俺とぶつかった相手は、目を見開いた。 それから手で慌てて口を塞ごうとしたのは普通に避けて、返答を待つ。 1度避けても2度3度と躍起になって掛かってきたので最後は鼻で笑ってやった。 「動きが遅い」 「……。あー。……謝りますので場所を変えて説明させて下さい」 「ふーん?最初からそう言えよ」 男をちょっと待たせて斯く斯く然々で時間取って欲しいらしい、とキリューに言えば、ちょうどいいから散開して昼にしようと決定した。 人気の少ない道中はいいとして、町中や店に行く時は、俺たちは基本的に別々に行動している。 1人ずつ、ではなく、ハルとククルには俺かキリュー、エートの誰かがペアとなる形である。 ツァイは何も言わずともククルと一緒だ。 別々、と言っても何処に居るかはわかる程度の距離を空けて歩くだけだが、それだけで十分他人を装える。 何故そんなことをと言えば理由は単純に、やっぱり羽無しが4人も一緒に居るのは目立つからだ。 だから別行動は2組か3組で、たまに誰かが1人になる。 ツァイの豹にしても目立つは目立つのだが、魔族は魔物をぞろぞろ連れて歩くような奴もたまに居るのでそこまで珍しくはない。 今居るのは大分大陸中央に近づいた、ミウ・サーナから数えて4つ目の町。 ミウ・サーナよりは小さめの、けれど賑わう町である。 魔族の町も4つ目になればそれなりに慣れたもので、別行動のもう1組は俺がキリューと何か話して離れていったのを見ただけで、時間も考えて昼食だと判断した。 今日の組み合わせはキリューとククルと俺、エートとハル。 俺が短い会話でキリューから離れると、ぶつかった男が眉を寄せた。 「今の……ムンガ族か?」 「当たり前だろ?」 そ知らぬ顔で言えば、男はちょっと詰まる。 実際はあっちもこっちもニセモノだが。
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