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「……神隠し?」
訝しげな声が、部屋に響いた。
それ程大きくはなく、けれど大量の機械の割には狭さは感じない部屋。
シンプルだがスタイリッシュで品の良い椅子に座るこの部屋の持ち主は、足を組み直してから頷き、隣のキーボードを叩いた。
今まで何もなかった空間に四角い光が浮かび上がり、グラフや数値がずらずらと表示されていく。
「前から傾向はあったのだけど…最近、活発なの。大半はいつの間にか戻って来て、何事もなかったかのように生活を再開するらしいけれど……中には、酷い怪我を負っていたり、精神を病んで戻ってくることもあるみたい」
説明する口調は淀みなく、少し低めの声は大人の色気を感じさせる。
タイトなスーツに身を包んだ女性は、知的な相貌を会話相手へと向けた。
「どうする?」
口にされたのは、問い。
問い掛けられた者は、ほんの刹那、わからない程度に短い時間思考したようで、返答には微かに間が開いた。
「お前でも原因がわからないってことは、人間の仕業じゃないか」
そして返ってきた答えは答えではなく、問い掛け。
女性はそれに肩を竦めてみせた。
「私は完璧じゃないわ。……でも、そうね。マフィアや裏の実力者なんかが関わっているなら、もう少し何かわかってもいいかもしれないわね」
言葉とは裏腹に、女性の声には自信が垣間見れる。
直訳するなら、「私の情報網に引っ掛からないのなら、人間の可能性は低い」、だろうか。
そんな女性の回答に、声は更に問いを重ねる。
「神隠しに遭ってるのは?」
「大体はウルフとか、鳳凰だとか数の多い種族。でも、時には妖精や龍などの稀少種、神獣が消えることさえもあるわ」
「人型は?何か話は聞けないのか」
「それが、覚えてないそうなの。その原因も不明」
これもわからない、あれもわからない。
結局殆ど何もわからないことを確認しただけとなってしまった応答に、女性の会話相手は天を仰いだ。
「仕方ない、探ってみるか」
そう言ってゆっくりと、しかし無駄のない動作で立ち上がる。
そのままとん、と、無造作に地を蹴って、何もない虚空に「浮いた」。
女性は驚くこともなく、それを見やる。
黒いロングコートを翻しふわりと浮いたのは、男だった。
大人というよりは、まだ青年、もしくは少年とさえ思える、若い体付き。
ゆるく弧を描く唇は赤く、何処か愉しげに見える。
しかし、まともに確認できるのはその口元のみである。
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