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顔の左半分は鈍く光る銀色の仮面が覆い、右半分は長く伸びた黒髪が顔立ちを隠す。
容貌を隠した黒衣の男は、宙に浮いたまま器用に脚を組み、しばし、目を閉じる。
女性は邪魔をしないようにか、一言も発することなく黙ってそれを見ていた。
しん、と、静寂が部屋を包む。
気のせいか、部屋の所々に潜む影――――闇が、濃度を増したような気がした。
そして男は唐突に目を開ける。
「…………ふむ」
何かに納得したかと思うとおもむろに、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、男の周りの空気が変わる。
今の今まで何故か濃度を増していた闇があっと言う間に霧散し、顔を隠していた仮面が消え、髪の長さが瞳にかからない程度に戻る。
弧を描く唇や服装、地に足が着いていないことはまったく変わらずに、指を鳴らしただけで「何か」が劇的に変化した。
女性はこれにも驚きはしなかったが、軽く疑問の表情を浮かべる。
「どうしたの?カレナ」
男――――カレナがこの問いに返した予想外の言葉に、たちまち女性の表情が引き締まる。
「神隠しの理由がわかった」
そして、彼は語った。
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