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椅子の数は8つ。
長方形の長辺に3つずつ、短辺に1つずつ。
ミュゼの執務室と同じく簡易の給湯室のような場所はあったが、それ以外は何もない。
なかなか簡素な部屋だった。
ミュゼが腰に下げていた懐中時計を手に取って、小さく呟く。
「……そろそろか」
するとその呟きに答えたかのようなタイミングで、突如複数の魔力と気配が部屋に出現した。
恐らくは、予め告げられていたのだろう。
転移で現れた人間たちは皆、きっちりフードを被っていた。
薄く、笑う。
何が始まるかなんとなく予測が付いたため、とりあえず、気配を消したまま壁に寄り掛かって眺めていることにした。
この時「会議室」に現れたのは3人。
その中で1番背の低い人物が、最初に口を開いた。
「私はいつもと同じ15分前ですけど、ミュゼさんが最初なんて、違和感ありますね」
少々低めだが、紛う方なく女性の声だ。
生憎声だけで年齢を計るような妙技は習得していないが、老人ではなさそうである。
この声に答えたのは、些か横に広いように思えるシルエット。
声は高めの男声。
「だ、だよね!ぼ、ぼくもちょっと驚いたよ」
……声だけでイジメ甲斐がありそうな感じだった。
からかったら楽しそうだが、怒らせたら面倒そう。
この2つの声に、ミュゼは眉を寄せる。
「ほぉ。お前たちが私をどう思ってるか、よくわかった」
この台詞に先の2人は慌てて弁解に回り、無言だった最後の1人はくっくっと低く笑い出した。
皮肉混じりの声が、容赦なく紡がれる。
「本人を前にして言う馬鹿が、2人も居るとはな」
ローブに隠れて確かにはわからないが、線の細い印象のある体躯で、こちらも男のようだった。
何も言い返せない2人を尻目に、言い放った男はさっさと1つの席に座る。
誰が気付かずとも、俺は気付いた。
男が俺に背を向けて座る形になるその一瞬、気付かない程微かに俺に目をやったのを。
いやぁ、流石。
面白いなぁ。
つい零れた楽しげな気配に、残り2人もそっと俺を伺う。
せっかく今まで無視してたのに、とでも言いたげな視線だったが、知らないふりをした。
次に部屋に発生した気配は2つ。
とは言え同時と言うわけではなく、両者の間には1分程のタイムラグがあった。
そしてその内の1人に関しては、俺はその気配を知っていた。
ただそこに居るだけで主張してくる、濃厚な火の気配。
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