挨拶

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立ち上がった全員が見つめる先は、唯一残った上座の空席。 そしていつかのギルド黄昏で感じた圧倒的な気配が、視線の先に凝った。 時間は10時ジャスト。 一部のズレもなく自分の席の後ろに転移魔法で出現した最後の1人は、エートと同じく正装で、フードを被っていなかった。 紺のローブの後ろには、美しく縫い取られたニビエラの花。 左胸の2つ目の徽章は無論鷹ではなく、暁光を意識した意匠のそれ。 いつもはただ布を巻いているだけの右目も、ローブと揃いの紺の眼帯で彩られている。 来てすぐにその場の全員の視線に晒された最後の1人――キリユーヴァ・ミトラは、黒曜石に似た片目を室内に向けて、ふっと軽く笑う。 「――…いきなり集まってもらって悪かったな、皆」 この台詞に、6人の二つ名持ちとギルドマスターが一斉に礼を取った。 代表して1人、今まで一度も口を開いていなかった二つ名持ちが恭しく返答を返す。 「あなたの求めになら、我らは幾らでも応じます。ティクル・エイスタ・ヴェルセエトラ」 自然と口の端が、釣り上がった。 ――――やっぱりな。 黄昏でこの気配……転移直後で隠しようのない魔力の気配を感じた時から、そうだろうとは思っていた。 思ってはいたが、やはりこうして「答え合わせ」をして貰えるとハッキリしていい。 慣れた様子からして、さっきの一礼がこのメンバーが一堂に会する際の挨拶らしい。 形式張ったやりとりはこれだけで、各々再び席に着いた。 口火を切ったのは、もちろんキリュー……「開闢の至宝」サマ。 「では、臨時会議を始めよう。――と言っても、俺はそんなに話すことはない」 そう言ってから俺を見て、手招きする。 別に拒否する理由は特になかったので、大人しくキリューに近づいた。 座ったままのキリューが、俺を見上げて言う。 「あんまり驚かないな?」 ついでに「椅子要るか?」とも聞かれたが、これには首を振った。 「ま、予想はしてたし」 「へぇ?魔力制御は失敗してなかったと思うんだが……俺は昨日結構驚いたのに、ちょっと悔しいな」 短くこんな会話を交わし、それだけで次は会議室の面々へ視線を移す。 俺を指して、平然と言った。 「俺はこのカレナを、皆に紹介したかっただけだ。話すことがあるのは、カレナだからな」 打ち合せも何もなしに、丸投げである。 こいつらに話があるなんて俺は一言も言ってないんだが、確かに話はなくもない。
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