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やっぱり変な子、と呟きながら、流華さんは煙を深く吸って、吐いた。
その指先の、黒に暗めのピンクレースがあしらわれた爪が目に留まる。
そういえばさっきのワンピースもこんな色の組み合わせだったな……と考えていたら、その爪が俺の方に伸びてきた。
「流華さん?」
「そのまま、動かないで」
細くて長い指先が、俺の顎を捕らえる。
え、と思った瞬間、やわらかい口唇が俺のそれに軽く押し付けられていた。
……何でだ。
女の人の方からされたキスを、拒否するみたいに身を引くのは何だか失礼な気がして、そのまま動けなくなってしまった。
と、いうか。
こういう理由で女の人と近付くこと自体久しぶりで、正直一瞬で気分がよくなってしまった、というのは事実だった。
そりゃ、誰でもいいわけじゃないけど。
そういえば失恋したてなんだっけ、俺。
自分のことなのに、何だか全部他人事だ。
応えるべきかどうか迷っている俺に焦れてか、流華さんの舌が遠慮がちに口唇を撫でてきた。
軽く触れた舌から感じた強いメンソールは、煙草の味だった。
ああ、このひとの舌も、気持ちいいかも。
ぼんやりとそんなことを考えていると、流華さんは一度強めに俺の口唇を吸った。間違いなく、誘っている。
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