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こういうの、役得っていうんだろうけど。
何だか、そのまま流れに流れてみたい欲求が湧いては来たけれど。
しなだれかかってくる流華さんの肩を掴んで、ゆっくりと彼女を引き剥がした。
拗ねたように口唇を尖らせた流華さんを見て、自分の心臓が痛いくらいに跳ねていることに気付いた。
「……なんで」
そう訊くのが、精一杯だ。
余計なことを言ったら、何だかスタンバイ状態になりそうだったから。
腰の辺りに妙な力を込めながら、髪を洗ってきたときに少し流れたのか、メイクの薄くなった流華さんの目を正面から見た。
「……好きなの、仁志くん。お願い」
「待って、いくら何でもそれ、嘘」
俺達さっき会ったばかりだよ、と言うと、流華さんは恋に時間は関係ないわ、と答えた。
妙に芝居じみたそのやりとりに、溜め息が出る。
「いや、部屋に上がった俺が間違ってました。それ以上何かするなら帰ります」
「どこの乙女よ!」
派手に吹き出した彼女は、俺の膝にもたれたまま肩を震わせた。
どれがどこまで本気なのか計りかねている俺に、流華さんはニッと笑って見せる。
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