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ああいう大人専用のカフェに自分も違和感なく出入りしたりするようになるのかな、なんて思いながら通り過ぎようとしたときだった。
水音がした。
ハッとしてそっちを見ると、カフェテラスで事件が起きている。
びしょ濡れの女が、微動だにせずスチールパイプの椅子に座っていた。
テーブルを挟んだその反対側に、ビジネスマン風の男が顔を真っ赤にして、空のグラスを持ったまま立ち尽くしている。
テーブルの上にはストローや氷が散らばっていて、その瞬間を見たわけではない俺にも、男が女に向かってグラスの中身をぶちまけたのだとひと目で判った。
ポカンとして、その光景を見つめてしまう。
……ひどいこと、するな。
とりあえずそういう感想が浮かんできた。
男の真っ赤な顔を見れば、その凄まじい怒りを窺うことはできたけど、公衆の面前で女の人にこういう仕打ちをしてしまうのは、何か違うと思った。これが逆だったなら、苦笑して通り過ぎるけども。
すると驚くことに、女は全身で溜め息をつくと、バッグから煙草を取り出した。
クセなのか何なのか、女はフィルター部分を押し潰し、ゆったりとその先に火を点ける。
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