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びしょ濡れで、煙草って。今それ、しなきゃいけないの？
思わず心の中でそう問いかけてしまった。
女は深く煙を味わうと、「はー……」と声付きで吐き出した。
それを聞いて、あれ、と思った。
この高い声には、聞き覚えがあった。
テラスと歩道には、さほど障害物らしきものはない。
ちょっと不躾かな……と思いつつ、俺はテラスを覗き込んだ。
濡れて乱れた女の髪から、ぽたぽたと雫がしたたり落ちている。
そのせいで、顔がよく判らなかった。
すると、男は真っ赤な顔のまま口を開く。
「お前、こんなときに煙草かよ!? いい度胸してるな！」
それには少し同情するけども。
飲み物を女の人にぶっかけるような自分の品性を、まず省みて欲しいと思ってしまった。
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