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生きている意味など見出だせない空虚な人生。
かといって、自殺願望がある訳でもなく、ただ時の流れに身を任せていた。
そう、時に退屈過ぎて刺激を求めながら。
「なぁ、怪盗Xが今度は大手航空会社の悪事を暴いたんだってよ!」
「一昨日は高級官僚と、大手ゼネコンの癒着を暴いたよな!」
「その前は……ええっと何だっけ?」
「多すぎてわかんねぇよな~!
ホントに民衆の味方ってか、カッコイイな!」
怪盗X。ここ数年、様々な悪事の証拠をマスコミに送りつける謎の民衆の味方。
堂々と予告状を送りつけ、誰も殺さず、華麗に情報だけを盗む。
警察は尻尾を掴むことさえ出来ない。
そんな怪盗Xの話を聞く度、三好は皮肉な笑みを浮かべそうになる。
所詮、怪盗Xがやってる事は犯罪なのだ。
それなのに周りは…。
昼間の“友人達”の会話を思い出し、三好は皮肉な笑みを浮かべた。
「…貴様が怪盗Xだな。
何故誉め称えられているのに、嬉しそうな顔をしない?」
「?!!」
人気のない暗闇の中、突如三好の背後から低い声が聞こえた。
黒い影が足を引きずって三好の横に並ぶ。
初老の男は日本人にしては背が高く、その身は細い。
髪を後ろに撫でつけ、右手には白い皮手袋、左手には杖を握っている。
「……………。
あんた、誰?
警察じゃないよね。
軍人さんが何の用?」
「…大した観察力じゃないか。
何故分かった?」
至極無愛想に問うた三好に、男は喉の奥で低く笑った。
三好は自分の質問がまるっきり無視されたことにムッとしたが、理由を仕方なく言うことにした。
何故か、この男には言わなければと感じたのだ。
「…まず、足を引きずってる警察官は居ない。
足を引きずるほどの障害があるのに、身なりはきちんとしている。
となると、富豪かある程度偉い軍人。
…で、あんたは富豪がまとわない空気をまとってるから。」
暗闇の中で、男が面白そうに微かに笑ったのを感じた。
三好は、突如現れた謎の男に今まで感じたことのない感情を抱いた。
味わったことのない驚きと、どんなにスリリングな“ゲーム”より興奮を覚えた。
「貴様、人生が退屈で仕方ないんだろう?
ならば来い。
こんな中途半端なことは止めてな。」
「…ちょ、ちょっと!
あんたは誰なんだよ!?そもそも何処に―」
「来れば全てが分かる。」
「……………。」
男はそう言い残すと、闇に消えて行った。
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