第36章

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「…なんですか。」 今日子先生はさらに深く、俺の目を見つめる。 「…春山くんは、大丈夫?」 俺は虚を突かれた。 「…俺ですか?…何が?」 「…。」 先生はふっと目を逸らした。 「…笹森さんを想うあまり、春山くんの方が参っちゃうんじゃないかって、ちょっとだけ心配だったから。」 「なんですか、それ。…俺は大丈夫ですよ。」 「そう。…なら、いいんだけど。」 先生はにっこり笑った。 「…ねえ。どうだった?あの後の、笹森さんの反応。 …また、来てくれそう?」 「はい。…がんばって治すって、言ってました。 …始めは、あんなに怖がってたのに。 さすが今日子先生ですね。…ホントにカウンセラーだったんだ。」 「なにそれ。…前から言ってるでしょ、ベテランでカリスマだって。」 「で、…歳、いくつなんでしたっけ。」 「内緒。」 先生はいたずらっぽく笑った。 俺は、先生の横顔を見つめながら、この人を笹森と引き合わせることが出来て、本当に良かったと、心から思った。 人の痛みを知る彼女なら、…きっと笹森を傷つけることなく、力になってくれるはずだ。 …だけど…。過去にカウンセラーからセクハラを受けたって、散々けなしてたけど、 …自分だって、俺に毎回キスしてたくせに、棚に上げちゃって…。 「…なあに?」 「いえ…。」 女の思考は、基本的に自分に都合よく出来ている物なのかもしれないと、この日、俺は学んだ。 .
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