第36章

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「俺なんか、ここに初めて来た時、酷かったですよね。」 「…そうだったっけ?」 「…一言めが、『帰っていいですか?』」 今日子先生は、ふっと笑った。 「そうそう。…思い出した。 …1日目は結局、椅子にも座らずに立ったまま少し話して、さっさと出て行ったわよね。」 「だって、谷田部先生に言われて、仕方なく来ただけだったから、あの日は。」 「…それでも、春山くんが次の週も来るって、分かってたわよ、わたし。」 「ほんとですか?…帰り際、『もう来ませんから』って言ったはずですけど。」 「でも、…ちゃんと来てくれたわよね。」 「…仕方なく、ですよ。来ないと困るかなと思って。 まあ、3回目からはオセロ持参で来てたけど。」 今日子先生は、あはは、と大きな声で笑った。 「やったわね、オセロ。…延々と。 …結局、一回も春山くんに勝てなかったのよね、わたし。」 「俺、オセロで今まで一回も負けたことないですから。」 「…性格悪いからじゃない?」 「……それは、カウンセラーとして俺を分析した上での言葉ですか?」 「ううん。ただの負け惜しみ。」 「…今日は素直ですね。」 「わたしはいつも素直よ。」 その時、笹森が、くすっと笑った。 俺は今日子先生と顔を見合わせた。 「…ほら、春山くんのせいで、笑われちゃったじゃない。」 「俺のせいですか?」 「そうよ、笹森さんにはデキるカウンセラーっぽく振舞おうと思ってたのに。」 「形から入ろうとすると、失敗しますよ、何事も。」 「形がなかったら、カウンセラーなんてやっていけないもの。」 .
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