第39章

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「あぶないよ、春山くん…。」 潤んだ目で、笹森が俺を見下ろす。 唇が触れそうな距離で、俺たちは見つめ合った。 恥ずかしそうに、おずおずと見返す笹森の可愛さは、…反則だった。 ちゅ、と軽く口づけ、頬を撫でる。 「…冬休みに入ったら、…買い物、行こう。」 「…? …何、買うの?」 「おそろいの箸と茶碗。」 笹森は、くすっと笑った。 「気が早いよ…。 卒業まで、まだ1年以上あるのに…。」 「…いいの。 …今から少しずつ、いろんなもの、揃えて行こう。」 「…うん…。」 俺は半身を起し、彼女の頭を座布団の上に寝かせ、身体を入れ替えた。 「…無理だ…。」 「え…?」 「…返事もらったら、…今夜は爽やかに帰るつもりだったのに…。」 「…春山く…。」 俺は彼女のパジャマのボタンに手をかけながら、深く口づけた。 胸元に手を差し入れると、笹森が甘く呻いて、俺の身体にしがみつく。 唇を離し、見つめた目の前の彼女の瞳には、…間違いなく、俺だけが映っていた。 「…笹森、…俺…。 どうにもならないくらい、 …お前のこと…好きだ…。」 笹森の甘い唇と、手のひらの柔らかな感触に酔ううちに、 俺の頭の中の全てが、侵食されるように彼女で占められていく。 これで、…二人の間に割り込むものは、もう何もない。 彼女と立てた誓いが、ふたりの固く握られた手を、さらにしっかりと結び付けてくれる。 そんな気がした。 それなのに…。 幸せに満ちたこの時に、…完全に身を委ねることが出来ない俺が、確かにそこにいた。 彼女の甘い香りでも埋め切れない、俺の頭の片隅には、 …あの蔑むような目で、じっとこちらを見つめている、笹森の父親の影があった。 .
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