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教室に戻る途中、ふと見ると、笹森の姿が俺の隣から消えていた。
振り向くと、彼女は立ち止まって、廊下の窓から外を見ている。
俺は戻って、隣に並んだ。
彼女の目線を追うと、校舎の間からちょうど、野球グラウンドの隅の屋根付きベンチが見えた。
笹森の手が、俺の右手を取った。
「…誕生日の日のこと、…覚えてる?」
彼女は遥か遠くのベンチを見つめながら言った。
「…覚えてるよ。…笹森の喘ぎ声が大きいから、ヒヤヒヤした。」
「…もう…。」
笹森が顔を赤くする。
「…そうじゃなくて…。
あの日は、…わたしが、初めて春山くんに、好きって言った日、なの…。」
あの日、…彼女の頬を濡らした涙の冷たさが蘇えり、俺の胸がちくりと痛んだ。
「もう、誰にも言わないって決めてた言葉だったから、…春山くんに言うことが出来て、すごく嬉しかった。」
「…うん…。」
彼女の手を握り返すと、笹森が俺に顔を向けた。
「…わたし、…頑張って、治したい。」
笹森は、俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
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