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しばらくそのまま首元に顔を埋めていると、
「……笹森」
「ん」
「……おなかすいたってば」
「……」
――もうちょっと幸せに浸っていたかったのに……。
仕方なく腕を解き、少しだけ拗ねながら体を離そうとすると、突然肩を掴まれ、ぐるんと体が反転した。
ベッドに仰向けで倒れ込むと、背中で弾んだスプリングがギシッ、と音を立てる。
「……笹森……」
こちらを見下ろすコハク色の瞳が熱を帯びている。
胸が甘く高鳴るのを感じながら、私は「はい」と応えた。
「夏休みが終わる前に、……ひとつだけお願いがある」
「……なに……?」
真っ直ぐな視線を受け止めながら首を傾げると、春山くんは真剣な顔で、
「……お風呂、一緒に入」
「それは無理」
「……」
にっこり微笑んでみせると、春山くんはちょっぴり悲しそうな顔をして、拗ねたように「けち」と呟いてから、わたしの唇を優しく塞いだ。
微睡の朝 完
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