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二人は言葉もなく、もう長い時間そうしていた。
窓の外からは、微かな波の音が聞こえる。
男の腕が、ゆっくりと持ち上がった。
羽根のように軽い感触が、娘の艶やかな髪に落ち、何度も何度も、その手は行き来する。
沢山の皺と傷が刻まれた手のひらが自分の額をそっと撫でるのを、彼女は夢のように感じていた。
あたたかい海の底みたいな穏やかな瞳が、徐々に冷たく曇っていくのも、夢だと思いたかった。
でも、彼女は知っていたのだ。
この瞬間、何をするべきかを。
何を言うべきかを。
それはもう、何年も前から。彼女が生まれた時から決まっていたこと。
彼女は、微笑んだ。
片方しか見えぬ右の目で、横たわるその人を
愛する祖父をしっかりと見つめて、美しく強く。
「永きにわたりそのお務め果たされたこと、何にも代えがたい誇りと存じます…船長」
凛と若い声は、白く光差す静かな寝室によく響く。
彼女は額にあてられた老いた手をそっと支えるようにとると、そのまま深く頭を垂れて、敬愛する彼の静かな呼吸に耳をすませた。
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