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そのマリアも、俺の傍から頑なに離れようとしない。離れろと言う度に銃の引き金に指がかかるので、近頃はその言葉も言っていない。 幼い分俺よりも遥かに衰弱しているらしいマリアを見ると少々いたたまれない気持ちになる。一応マリアは俺を拘束している張本人なのだが、別にこれといった危害を加えられたわけではないのだ。もしやこれが世にいうストックホルム症候群というやつかと勘繰ってみたが、そういった類の知識が全くないので分からない。 この状況下でこんな下らないことを止め処なく考えているあたり、俺はもう狂ったのかもしれないな、なんてことを冷静に考える。本気で危ない。 誰か助けてくれ。知り合いでも上司でも警察でも誰でも良いから。俺はマリアに突撃してここから逃げ出すことは出来ない。別に同情しているわけでもなんでもなく、単純な事実として、だ。俺が彼女に対し否定的なことを言った時の銃の扱いが異常に俊敏なのだ。あれでは、俺が逃げようとした瞬間、例によって蜂の巣だ。 まとめると、俺はここから出れないし、下手すりゃもうすぐ死ぬかもってことだ。ついでに、頭の方も少しおかしいかもしれない。 「オーウェン」 マリアがぎゅっと俺にしがみつく。 「オーウェンは大丈夫なのですか?」 「このままだと餓死するかもしれないな」 「オーウェンも、死ぬのですか?」 「知るか、んなこと。死んだことないんだし」 「それは屁理屈なのです」 「それがどうした」 「屁理屈だという事実を述べただけなのです」 会話が途切れた。マリアは俺にしがみついたままだ。最初は暑苦しいと思っていたが、今は暖かい。体調が変化したせいか、感情が変化したせいか。
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