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別に今でもマリアの恋情に応える気はない。それでも、妙な安心感があるのは確かだ。 俺は本気でストックホルム症候群じゃないだろうな。加害者と被害者が同一空間内で長い時間を過ごすうちに一体感を得る症状、だったと思う。所詮俺にはテレビで見た程度の知識しかない。加害者の心情なんかを聞いているうちに同情してくるから起こるとかなんとか。 同情はともかく、まあ、可能性はあるな。最近、餓死という危機感がこの空間を支配している。食事のことを全く考えていなかったマリアに恨み言を捧げよう。人を拉致する時は水も食糧も十二分に用意するべきなのだ。 「怒らないで欲しいのです」 マリアが怯えたような目でこちらを見つめていた。相変わらずの無表情、無感情、無防備。ここから僅かな感情の揺れを察することが出来るようになった俺も筋金入りだ。 「何だ?アンテナが俺の方に向いたか」 こくこく。マリアが小動物のように頷く。 「オーウェンが本当に怒ると、凄く怖いのです。オーウェンがオーウェンでなくなるような気がするのです」 「ベタな表現だな。漫画の読みすぎだ。怒ろうがどうしようが俺は俺だから」
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