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恍惚とした表情のマリアを見て、思わず戦慄が走る。普段無表情だからその変化に驚いたとか、そういう類のものではない。近いうちに死ぬと分かっている者が、こんな顔をするのか。もうじき自殺に等しい行為をするのに、何故こんなにも希望に溢れたような顔をするのか。 このマリアという少女は、本気でこの俺と永遠に一緒にいるらしい。しかも、死んだ後に。だから、死に対して何の感情も抱かない。彼女にとって大切なのは生でも死でもなく、死後なのだ。 狂ってるんだろうな、とぼんやりした頭で考える。そして、それに同意はしないまでも納得する俺も相当いかれてる。同意した段階で俺は彼女と同じ領域に到達するんだろう。もちろんそうならないのが一番望ましいが、この空間に閉じ込められ続けたらいつか俺も発狂するかもしれない。この空間に蔓延した空気はどこかおかしいのだ。おかしな色合いに染まっている。 結論、だから俺が死ぬ前に誰か助けに来い。 自力で脱出するということはここに来てから四六時中考えていたが、まず無理なのだ。彼女は殺害に対する抵抗がない。そんな彼女が狭い部屋で武器を持ってたった一人の人間を見張っている。逃げようとすれば以下略。 ここに来てすぐ思ったことが再び頭を過ぎった。ただし、今度は懸念材料を一つだけ付与して。 俺が生きて家に帰れる日は、来るのだろうか。
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