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更に時間は流れる。水も食糧もない上に睡眠時間すら適当だから、体調は最悪だ。いや、最悪という言葉では生温い。なにせ、もう自力ではほとんど動けないのだから。視力と聴力がまだ生きているのが幸いか。
「オーウェン」
対するマリアはまだ少し動けるらしい。
「オーウェン、どこにいるのですか?」
代わりに、視力はほとんど死んだようだ。俺は彼女の目の前で壁に寄りかかっているのだが、彼女の瞳が俺を捉えることはない。忙しなく焦点が揺らぐ。
「私より先に逝くのは許さないのです。私は待たれるより待つ方が好きなのです」
「人を勝手に殺すな」
その一言で、マリアの首がぐるんとこちらを向いた。にぃ、と口角が吊り上がる。顔はこちらを見ているが、目の焦点は合っていない。見えていないのだから当たり前だが、正直空恐ろしい。
「私にあなたを殺す理由はないのです」
そりゃそうだ。殺すまでもない、放っておけば死ぬ人間をわざわざ殺す道理はない。
「先日は天国も地獄も関係ないと言ったのです。でも、やはり天国の方がいいのです」
「俺は現世がいいけどな」
「何度も同じことを言う必要はないのです。ここでは駄目なのです」
「ここで駄目ならどこ行っても駄目だから。今出来ないことは後になっても出来ないからな普通は」
「普通でなければいいのです」
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