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現状、脱出と生存はイコールではないのだ。彼女の意志さえ変えてしまえば、脱出は出来ないまでも生存は可能だ。生きていれば何とでもなる。
なればこそ、俺は彼女を籠絡すべく言葉に言葉を重ねているのだが、一向に効果がない。彼女の決意は超合金並みということだ。それを溶かすには以前要求されたようにお熱く愛してるとでも囁けばいいのだろうが、未だにその気にはならない。命の危機にあっても一戦は越えないあたり、俺の覚悟は超硬合金並みか。
まあ恰好良く決めたところで、正直な話、愛してると言ったところで俺の死期が早まるだけだろうから言わないだけなのだが。
「オーウェン」
マリアが顔をこちらに向けた。緩慢な動作で、身体を引きずるように這いずってくる彼女の姿に、意図せず眉間に皺が寄る。
「オーウェン」
全身の力を振り絞るようにして、彼女は俺に抱きついてきた。身長差も相まってか、彼女は俺の腰に手を回し、胸に顔を埋めた。
普段なら赤面ものだっただろう。もっとも、精神状態がまともでない今は、当然湧くべき感情も形を潜めたままだ。
「オーウェンはまだ温かいのです。まだ動いているのです」
「死んでたらどうする気だったんだ?」
「銃か包丁ですぐにあなたの後を追いかけるのです」
ちなみに、銃は俺から一メートル程離れた場所に落ちていて、包丁は俺の左斜め上五十センチくらいの場所に突き刺さっている。
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