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そう言ってやろうとしたが、マリアの様子を見てやめた。身体全体が弛緩して、全体重を俺に預けている。感覚が麻痺しているから分かりづらいが、呼吸しているかも怪しいな。 最期に私の名を呼んでくれとは、また典型的な展開だ。普通でないことしかしてこなかったのに、最期の最期だけは普通。それもまたいいだろう。 「ははっ」 思わず笑い声が漏れる。どうやら本格的に狂ったらしい。 具体例を挙げてしまえば、モノローグもダイアローグも死で彩られているこの現実が。 更に言うなれば、その全てを俯瞰するように傍観し何の感慨も抱かないこの俺が。 面白いじゃないか。結構なことだ。マリアはいない、オーウェンは生きている。ここで俺も死んだら、何がどう変わるのだろうか。 「ははははははははっ、ははははははっ」 笑いが止まらない。俺も存外狂ってる。マリア、俺はお前が狂っていると思っていたが、少しばかり言葉を加えようじゃないか。確かにお前は狂っていたが、波長が合わなかっただけで、俺も充分狂ってる。 一頻り笑ったあと、さすがに苦しくなって寝た。抱き枕は酷く冷たかった。
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